今回は最近理化学研究所が発表した、二重スイッチ数理モデルについての話です。このモデルはアトピーの発症および悪化のメカニズムを解明するためのモデルで、シミュレーションの結果、実際の臨床データやマウス実験の結果と良く一致することが明らかになりました。
つまり現状かなり説得力のある、アトピー発症・悪化の仮説なのです。
これを知っておくことで、自分のアトピーを良くするためにすべきこと、子供をアトピーにしないためにすべきことが改めてよくわかります。
それでは、二重スイッチ数理モデルについて説明します。
目次
二重スイッチ数理モデル
概要
理化学研究所を含む国際研究グループはアトピーの発症と悪化のメカニズムを統一的に説明する二重スイッチ数理モデルを構築しました。
このモデルで特に画期的だったのはアトピーのメカニズムを、発症を起こすが元に戻りうる“可逆的なスイッチ1”と元に戻らない“非可逆的なスイッチ2”の二重スイッチで表現したことです。
- スイッチ1は炎症を発症させるスイッチで可逆的(スイッチオフにできる)
- スイッチ2は症状を悪化させるスイッチで非可逆的(スイッチはオフにならない)
- スイッチ1が頻繁にオンになることでスイッチ2もオンになってしまう
以下の引用の図がわかりやすいです。
左:アトピー性皮膚炎の発症と悪化に関しては、可逆スイッチ1(オレンジ)と非可逆スイッチ2(緑)の二重スイッチが働いている。この図はまだ発症していない状態を表す。
右: スイッチ1は、自然免疫反応と皮膚バリアの状態とのバランスによって制御され、外部からの細菌の量が閾値を越えると、右側に傾きオンとなりアトピー性皮膚炎を発症する。しかし、スイッチ1は可逆性を持つため、適切な治療をすると治り(正常になる)、スイッチ1が元に戻る。ただし、スイッチ1を制御しているもう一つの環境的要因が働くことによって、スイッチ1が長時間オンになって炎症が継続する場合や、断続的だが頻繁にオンになって炎症が高頻度で続く場合には、非可逆スイッチ2がオンになる。スイッチ2が一度オンになると常にオンの状態になり、アトピー性皮膚炎の症状はどんどん悪化していく。
http://www.riken.jp/pr/press/2016/20161215_1より引用
スイッチ1を詳しく
スイッチ1は、外部からの皮膚に侵入する細菌などのセンサーです。皮膚バリア機能と皮膚の黄色ブドウ球菌の状態によって活性化します。活性化することで、炎症が起き、さらに皮膚バリアに損傷が起きます。このような状態が続き、皮膚内に侵入する細菌の量がある一定量を超えることで、スイッチ1が押されます。
さてスイッチ1を制御する自然免疫反応と皮膚バリアの状態は、遺伝的要因によっても左右されています。アトピーが遺伝するといわれるのは、スイッチ1の起動のしやすさが遺伝することがあるからです。例えばアトピー患者にはフィラグリン遺伝子に異常がある人が多く、もともと皮膚のバリア機能が弱くスイッチ1が起動しやすい人がいることが知られています。
ただし、スイッチ1は可逆性を持つため、適切な治療をほどこすことにより、スイッチをオフにすることができます。その方法がバリア機能を補うための保湿だったり、黄色ブドウ球菌を減らすための殺菌だったりするわけです。
スイッチ2を詳しく
一方で、スイッチ2は、インターロイキン-4(IL-4)のレベルを上昇させることにより、炎症を悪化させるスイッチです。スイッチ1が長時間オンになっている(つまり炎症が長時間継続する)、あるいは断続的だが頻繁にオンになっている(つまり炎症が高頻度で続く)ことでスイッチ2がオンになります。
このスイッチ2がオンになることで、アレルギーに関わるTh2細胞の反応が促進され、IgE抗体の産出が一気に増加し炎症が悪化します。スイッチ2は非可逆的にしか働かないため、スイッチ2をオンにしないことがなによりも大切です。
よく一度増えたIgEは(なかなか)減らないと言われるのは、このスイッチ2が非可逆的であるからです。
二重スイッチ数理モデルの意義
アトピー予防への応用(アトピーにしないために)
二重スイッチ数理モデルの研究から、
①保湿剤を使うことで皮膚バリアを強化し、症状悪化のサイクルを止めることが効果的な予防法であること
②この予防法が遺伝的要因の有無に関わらず全ての患者に効果的であること
がわかりました。生まれてきた赤ちゃんをアトピーにしたくないと考えているお父さんお母さんにとっては朗報でしょう。
また成人で軽い乾燥肌のひとはしっかりと保湿をすることで、アトピーの発症を予防できるのです。
アトピー治療への応用(すでにアトピーのひと)
二重スイッチ数理モデルの結果が分かったからと言って、私たちアトピー患者が行うべき治療法が変わるわけではありません。スイッチ2が非可逆的である以上、スイッチ1をオフにする方法こそが現状最善の策なのです。
つまり、スイッチ1をオフにするために、皮膚のバリア機能を整えることと、黄色ブドウ球菌などの病原性細菌を減らすことを積極的にすべきなのです。ある意味、二重スイッチ数理モデルは、私が最初に書いた記事「アトピーの本当の原因は皮膚免疫と腸内免疫にあり」の皮膚免疫の異常についての内容が正しかったことを証明してくれています。
今後さらに研究が進み、スイッチ2をオフにする方法が見つかればそれが最善の策になるかもしれませんので、今後も最新の研究についても注視したいと思います。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
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